「学者」の上に「職人」--明治以降サカサマ
自然とのかかわり--日本の伝統的な考え方
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西岡常一氏
1908年~1995年 最後の宮大工棟梁
木に対する洞察は深く、
木に生き、水を生かす名匠として名高い
『木のいのち 木のこころ』 以下抜粋
大袈裟(おおげさ)なようですが、
大工にも 自然観が 必要なんです。
自分より大きな自然 というものに対して
きちんとした考えを 持たなあかんですよ。
木を見るにしても、 すぐに
これはなんぼの木や、
これは50年しかたっとらんから 安い
これは 千年やから 高い
--- これでは あきませんな。
その木の生きてきた環境、
その木の持っている特質を生かしてやらな
たとえ名材 といえども 無駄になってしまいますわ。
こういうことは 農学校を出て、1、2年、百姓をやらされて
初めて わかりましたな。
自分で育てたものは 無駄にしませんし、
植物は 育てるのに えらく手間やら時間やらがかかるんです。
また 手をかけただけ、大きくなるんですな。
儲(もう)け仕事に走れば 心が汚れる
昔の宮大工が 百姓大工やった
というのは理想的な姿かもしれませんな。
百姓大工をしてたら 食えるから、待つこともできますわな。
一度 余裕をなくして儲(もう)けを追い出したら、
時間を待つこともできんし、
休むこともできんし、どうしても「はやく、はやく」ということになりますな。
今の人は みんな そうなってしまいました。
そのうえ、仕事が細こう分業になって
自然とのつながりが わからなくなってしまったんですな。
大工でさえ、木がどこで育てられ、どんな育ち方をしたのかさえ
見わけようがない。
そんな木を使(つ)こうて、上から 早く早くといわれるし、
自分でも 少しでも早ようしようと しますやろ。
-- まぁ こんな時代ですが、
ちゃんとした仕事をしようと思ったら、
自然のことを忘れたらあきませんわ。
どんなにしても 人間は自然から逃げられませんし、
その自然のなかでは 木や草と そんなに変わらしませんのやから。
☆ ☆
まずは 自然の命 というものに対して、
もっと 感謝して 暮らさな なりませんな。
今の人は 空気があって 当たり前、
木があって 当たり前 と思っていますけど、
水がなかったら 命がありませんのやし、
生命も 育ちませんな。
今の人は 自分で生きている と思っていますが、
自分が 生きているやなしに
天地の間に 命をもらっている木や草や
ほかの動物と同じように
生かされている ということ、
それを 深く 理解せな あきません。
自分だけで 勝手に生きていると思っていると、
ろくなことになりませんな。
--想起:虫の話 動物との関わりの話 クジラ 魚の話
☆ ☆
おじいさんが いつも言っていました。
昔は 学者よりも 職人が 上やった。
明治以来、西洋の学問が入ってきて、
考え方が 西洋式になってしまってから、
学者が 上になってしまった。
実際に仕事をする職人が 下に見られるようになった。
--論争になると、学者は
この時代は こういう様式のはずや、
あの伽藍(がらん)は こうやったし、
ここは こうやったから
こうあらねばならん
というようなことを 言いますのや。
これじゃ、あべこべですな。
先に 様式を考えているんですな。
そうじゃなしに、現にある、廃材の調査から
どんなものだったかを考えな ならんのですよ。
自分の考えの前に 建物があったんですからな。
職人がいて建物を建て、それを 学者が研究しているんですから、
先に 私らがあるんです。
学者が先におったんやないんです。
---体験や 経験を 信じないんですな。
本に書かれていることや 論文のほうを、
目の前にあるものより 大事にするんですな。
☆ ☆
義務教育やいうて 子供を学校にまかせっぱなしやから、
子供のことも わからんようになっていますやろ。
そして 何でも早く、簡単に、ですわ。
自然 というものを見失うて、
知識だけを 詰め込みたがりますな。
これでは あきません。
世間と競争することばかり考え、
自分の子を そこに押し込んでいるうちに、
その子の 本当の姿をみるはずの母親の目が
見えんようになってしまっているんやないですかな。
本来、母親の役目 というのは
働く父親の姿を後ろから見て、行き過ぎた 行き足らん
ということを 子供に教えてやるんですわ。
父親は 家族のため、社会のために
一生懸命 働いておりますし、
目の前のことを 処理せな ならんですわな。
明日よりも まず 今 です。
これでは 時には 道を間違えたりしますわ。
男というものは そんなもんでっせ。
それを正し、父親の後ろ姿を子供に見せながら、
子供に どうしたらいいかを教えるのが 母親の役目ですわ。
それを 父親と同じように、目の前のことに夢中になって
「それ行け」、「そりゃだめ」
--なんて母親が言うてたら あきませんがな。
自然の生活の中で 子供のことを見ているから
子供のよさが 見えてくるんです。
もう一度、母親に 子供の芽を見つけ出して育てる役を
担(にな)ってもらいたいものですな。
☆ ☆
丸暗記したほうが 早く 世話はないんですが、
なぜ と考える人を育てるほうが 大工としていいんです。
面倒でも 木割りがなぜ違っているのかを考え、
後で 自分流の木割りができますのや。
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素直に、自分の癖を取って、自分で考え、工夫して、
努力して 初めて身につくんです。
考え考えしてやっているうちに、ふっと ぬけるんですな。
そして こうやるのか と気がつくんです。
こうして覚えたことは 決して忘れませんで。
--これを頭ごなしに「こうやるんだ」と教わってもできません。
--手取り足取り丁寧に 事細かに教わっても できませんな。
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そうして 初めて 本当の宮大工といわれるようになるんですな。
丸暗記するだけでは
新しいものに 向かっていけません。
丸暗記には 根が ありませんのや。
--根がちゃんとしてなくては 木は 育ちませんな。
根さえ しっかりしていたら、そこが岩山だろうが、
風の強いところだろうが、やっていけますわ。---
人でも木でも 育てる ということは 似ているんでしょうな。
木の使い方と同じように
癖 を見抜いて その人のいいところを
伸ばそうとしてやらな なりませんわな。
育てる ということは
型に押し込むのやなく、
個性を伸ばしてやることでしょう。それには 急いだらあきませんな。
☆ ☆
日本の文化は 自然の持つ素材のよさを生かして
自然の中に置いて 調和の取れるものを作っていくなかで生まれ、
育ってきたんですけどな。
今は 石油を材料にして、どんなに扱っても壊れん、
隣りの人と同じもの、画一的なものを作れと言うんですからな。
均一の世界、壊れない世界、 どないしてもいい世界からは
文化は生まれませんし、育ちませんわな。 職人も いりません。
いつまでも壊れん、どないしてもいい というたら
作法も 心構えも 何にもいらなくなりますわな。
なにしろ 判断の基準が 値段だけですからな。
職人の仕事のよさは
一つ一つ違う材料のよさを引き出して ものを造ることやけど、
そんなもん、いらん というんですからな。
★
千年の木は材にしても 千年持つんです。
100年やったら 100年は少なくても持つ。
それを 持たんでもいい というんですな。
昔は おじいさんが家を建てたら その時 木を植えましたな。
この家は 200年は持つやろ、今 木を植えておいたら
200年後に 家を建てるときに ちょうどいいやろ
といいましてな。
200年、300年 という時間の感覚がありましたのや。
今の人に そんな時間の感覚が ありますかいな。
もう 目先のことばかり、少しでも早く、でっしゃろ。
それでいて 「森を大事に、自然を大事に」ですものな。
木は 本来 きちんと使い、きちんと植えさえすれば、
ずっと使える資源なんでっせ。
鉄や石油のように 掘って使ってしまったらなくなる
というもんやないんです。
植えた木が育つまで 待たせる、使い捨てにしない
という考えが、ほんのこの間まで ありました。
本来持っている木の性質を生かして、無駄なく使ってやる。
これは 当たり前のことです。この当たり前のことをしなくなったですな。
木を生かす。無駄にしない。癖をいいほうに使いさえすれば
建物は長持ちし、丈夫になるんです。
私らは そのために技術を伝え、口伝を教わってきたんですからな。
もう少し、ものを長い目で見て、考える
ということがなくてはあきませんな。
★
茶碗は 人が丁寧に作ったもんでした。
下手に扱えば 壊れますわな。
二つ と同じものがないんやから、
気に入ったら 大事にしますな。
扱いも 丁寧になります。
他人のものやったら なおさら そうでっせ。
人様が大事にしているものを壊したらならん
と思いますやろ。
物に対しても、人に対しても
思いやりが そうした中から生まれるもんですわ。
文化 というのは
建築や彫刻、書 というものだけやおまへんのや。
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Bring cheap labor. Bring those submissive workers.
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