金魚ちょうちん 想像の夢の中
『原田泰治の世界 ふるさとの詩3 春 夏』
糸につるした金魚は
竹ヒゴと 和紙で 作られていて
わずかな風に 泳ぐように揺れた
偶然、立ち寄った 旅先の食堂で 見つけたのだが
そこの主人に、どこの郷土玩具か聞いてみても
”知人からのみやげ” とのこと。
--- そのうちに、
上領(かみりょう)芳弘さん(65歳)が作る金魚ちょうちんとわかり
山口県 大島郡 大島町を訪ねた。
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ため池に沿った道は 夏草が茂り
水辺の柳から ヨシキリの鳴き声が聞こえてきた。
上領さんは 25年前 公務員時代に胸をわずらい
療養生活がつづいた。
やがて 退院したものの、人形づくりなど 手仕事で暮らすことにした。
そんな折、
柳井地方に 古くから親しまれていた金魚ちょうちんを本で見た。
戦争を境に 影をひそめ
作る人は ほとんどいない と言われていた。
しかし、80歳の老人が 以前に作っていた1人と聞き
とりあえず、会いに 出かけた。
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病気の老人は、床に伏したままで
思い出すかのように、 ポツリ ポツリ 作り方を 教えてくれた。
帰りぎわに
「いい後継者が できた」
と、金魚ちょうちんを 一つ くれた。
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その日から 上領さんは 竹と ヒゴづくりに取り組んだ。
そう簡単なものではなく、
何度やっても 失敗ばかりしていた。
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10日ほどして、
また 老人を 訪ねた。
玄関の戸は 閉ざされ、
近所の人から 「3日前に 亡くなられた」と聞いた。
ぼうぜん としてしまった
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上領さんは そんな思い出話をしてくれた。
潮風に揺れる 金魚ちょうちんには
人知れぬ 苦労話が 秘められていた。
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原田泰治 作品ギャラリー 金魚ちょうちん
金魚ちょうちんは、幕末の頃、今からおよそ150年の昔、柳井津金屋の熊谷林三郎(さかい屋)が、青森県の「ねぶた」にヒントを得、伝統織物「柳井縞」の染料を用いて創始したといわれています。それを、戦後長利亭二老の指導を受け、独自の技法を加えて今日の新しい金魚ちょうちんを完成させたのは、周防大島の上領芳宏氏です。古くは多くの家々でおとなたちが子供に作って与えていました。また、氏神様の祭礼などに「お迎えちょうちん」の中に交じって、色どりを添えました。藤坂屋
金魚ちょうちん祭り
柳井の代表的な民芸品である「金魚ちょうちん」がモチーフになった、柳井の夏を熱くする祭り。2000個もの 金魚ちょうちんが会場各所に 飾り付けられ灯をともした光景は とても幻想的。
そのあかりの下で、
金魚ちょうちんのねぶたが 跳ね踊り 白壁江戸祭りなども おこなわれる。