松浦元男氏 ”人間を大事にすることで会社を守る”
『縦並び社会』毎日新聞社会部 以下抜粋
松浦元男氏 樹研工業社長 1935年生まれ
65年、同社を愛知県に設立。
世界最小の100万分の1グラムの歯車の開発に成功するなど、
極小精密部品製造で、国内トップ。
学歴・経験不問の 「先着順採用」や、
社員参加の経営会議といったユニークな経営で知られる。
『リストラによる業績回復が評価される風潮は、最低です。
経営者の都合だけであって、粉飾決済と同じだと思う。
確かにリストラで業績回復した会社もありますよ。
でも、社員は自社製品を買ってくれる一番のお客さんなんです。
それを切り捨ててしまっては、10年後には売り上げが落ちるでしょう。
リストラで立ち直った会社でも、その当時に給料を2割減らしてでも
雇用を維持していたら、社員は意気に感じて
今より良い会社になっていたかもしれません。』
『会社は株主のものという考え方はおかしい。
社員と経営者がいなかったら、会社は運営できません。
会社が株主のものだというなら、株主だけで運営してみろと言いたい。
株主はお金を出しているだけです。
それに対しては配当が支払われているわけで、
それ以上のものではありません。だから、会社を上場したいとは思わない。
20億ぐらい入りますよと言われたこともあります。でもそんな金はいらない。
会社は株主のものでもなければ、経営者のものでもない。
社員と経営者の共同所有だと思っています。』
学歴・経験不問の先着順での採用活動を続けているのはなぜですか?
--松浦氏
もともとは人を選ぶほど、就職希望者が来る会社じゃなかったから、
暴走族みたいなものでも一度入社したら離さなかった。
実際に働いてみると、みんなしっかりしています。
そもそも人間は
ペーパーテストや10分かそこらの面接をやっても何もわからない。
これまで、意外な力を発揮したという社員は?
--松浦氏
意外なんてことはあまり感じたことがないですね。
誰にだって可能性があると思うから。
たとえば、口下手だけど、
コンピューター言語はペラペラという若者が他社を落ちて、
うちの会社に来てくれました。
そんな能力は、面接だけではわからないでしょう。
100万分の1グラムの歯車を開発したのも、
高校時代には番長だった社員。
知らないうちに午前4時から働いて、最後には結果を出してくれました。
学生時代は、数学がまったく出来なかったのに、
機械にデータを入力するうちに
微分積分をマスターした女性社員もいました。
社員の可能性を引き出すのに大切なことは?
--松浦氏
ちゃんとしたチャンスを与えてやること。
必要な資金をつけて、「ここがお前の出番だ」と言ってやると、
本人は奮い立ちます。
そしてこの仕事は社会的にこれだけ意味があるとか、
会社にとってこんなに大事なんだということをきちんと伝える。
そして会社を世界の一流にしてやろうと思わせる。
それが経営者の仕事です。
今の若者は、僕たちの若いころに比べて、理解力や行動力は数倍上。
エンジンさえかけてやれば、こちらのものです。
成果主義的な給与体系は採用していますか?
--松浦氏
給料は年齢序列で、
ボーナスは会社の業績次第で増減しますが、均等配分です。
みんなで稼いで山分けだと言っています。
決算の内容は社員全員に知らせるし、生涯賃金表も渡してあります。
これは少なくともこれだけは給料を払うという社員との約束です。
正社員と非正社員では、似た仕事でも給料が大きく違うケースが多いです。
--松浦氏
不合理です。
うちも見本市などでは派遣社員を雇っていますが、
非常に能力が高くて感心します。
派遣で働いているのはもったいないと思う。
ただ、そうしないと会社が成り立たない部分もあり、難しい問題ですね。
待遇の平等をあまりに追求してしまうと、共産主義になってしまいますが、
政治の力で
あまり格差が出ないようにしていくことが必要ではないでしょうか。
社会の活力を引き出すために、適切な社員待遇とはどのようなものでしょう?
--松浦氏
会社が払えるのなら、給料は高ければ高いほどいい。
僕は全身全霊で生産性が上がるように考え、
社員に一銭でも多く給料を払うことに信念を置いています。
どれだけ高い給料を払うことができるかが経営者の能力。
うちはここ14、15年間、社員の定着率は100%です。
長く勤めてくれるというのは、会社にとって最大の武器。
社員も辞めるという考えがないから、
技術を教え合うことになんのわだかまりもなく、
これだけの技術を持つことが出来ました。
経営者は六本木ヒルズに住むことができたかどうかではなくて、
社員にどれだけの給料を払って、
何人の社員を住まわせたかということで評価されるべきです。
定年制度も無いと聞きます
--松浦氏
大事なのは安定した雇用を保証して、能力を発揮してもらうことです。
定年制なんて必要ない。60歳といえば元気だし、
うちには76歳の社員がいますが、会社の中を走り回っていますよ。
60歳でも子供が3人ぐらいいれば末っ子はまだ学生。
それで失業したら家庭が成り立ちません。
確かに一番給料が高い年齢層だから、定年制は会社にとっては楽です。
しかし働いている人の都合を本当に考えれば、そんなことは出来ません。
40年も勤めてくれた人はノウハウの固まり。
そういう年齢層の社員が毎日安心して出社してくると、
30代や40代も安心して、技術開発に打ち込んでくれます。
会社としてもプラスだと思っています。
グローバル化の中で、競争力を維持していくために必要なことは何でしょう?
--松浦氏
価格競争をするという選択肢もありますが、
それでは勝ち残る会社は1社だけ。
だから製造業で言えば、競争力は、
いかに新しい技術を生み出すことが出来るかという技術開発力です。
その根底は、いかに人材を育てるかにかかっている。
そのためには、国も経営者も、
社員が安心と希望を持って働ける環境を作ることに努力すべきです。
人間を大事にすることが、
会社や競争力を守ることにつながっていくんです。
------------------------------------------------
★ 安心(=心配・不安がなくて心が安らぐこと)
身心一如(しんじん・いちにょ) 体と心は、つながっている
病気(気が病む、安らがない心の状態)を遠ざける一番の薬が”安心”だ
松浦氏のような会社社長が 日本を覆いつくしてくれますように
------------------------------------------------
小泉龍司氏&森田実氏 対談 抜粋
日本の前総理大臣の小泉純一郎さんも大きな間違いを犯したんですね。
官から民へ、官から民へ、民が善であたかも官が悪のごとく、
この民と官とのバランスを取ることが、いわば、政治の役割なんですよ。
そこの均衡点をどのように見出していくかと。
ここに政治家の独創性があるんですが、この調和を求めるという思想を、
ブッシュ大統領もアメリカも捨てた。
日本の前総理大臣の小泉純一郎さんも捨てた。
ここに大きな混乱があるんです。
アメリカは、
非常に資源が豊かで、農産物も豊富で、
国民が自給自足して生きていくことができる国なんです。
日本は、
平地が非常に少ない資源小国です。
何をしなきゃならんかと言うと、助け合いなんですよね。
日本は助け合いでしか生きていけない国なんですよ。
調和することを通じてですね、日本人は協力し合い助け合い、
そしてそこに道徳が生み出され、常識が生み出され、
この道徳と常識というものを2つの軸にして、
日本という共同体が成り立ってきたわけです。
そしてそれをカバーするのが法律だったんですよ。
ですから、法律と道徳とそれから、常識。
道徳と常識は長い間の日本人の歴史が作ってきたものです。
これをきちんと置いてかないと社会は崩壊するわけです。
ここに、最近の自由主義思想の大きな失敗があるんだと思うんです。
★ ★ ★ 明日の日本を支える 元気なモノ作り ★ ★ ★
各地域の元気なモノ作り中小企業300社 一覧
2006年版はこちら 株式会社 樹研工業