”樹木の家族” ジュール・ルナールの博物誌から

ジュール・ルナール(1864-1910), Jules Renard
フランス北部生まれ。

『博物誌』は、動植物についてのエッセイを集めたもので、
ルナール自身、もっとも愛した作品と言われている。

《樹木の家族》 から引用


かれらは騒音をきらって 
道ばたにはよりつかない。

人の手の入らない草原で、

鳥だけが知っている泉(いずみ)のほとりに住んでいる。


遠くから見ると、とてもかれらの中には入りこめそうもない。

近づくとすぐに囲みを開いてくれるが、すっかり心を許しているわけではない。

私はそこで休息し すずむことができるが、

かれらは私を観察し、うたがっているように思える。


かれらは長生きである。

そして家族の中に永眠する者がいても、

遺体がくち果てて 土にもどるまで 家族で守りつづける。


枝が長くのびると 

「いい枝ぶりだね」 とほめ合う。

目の不自由な人たちのように

たがいにふれ合うことで、みなの無事を確かめられるからだ。


風が木々を根こそぎにしようとふきつけると、

かれらは身体をふるわせて怒りをあらわす。

だが家族の中では口論一つない。

「それでいいのだよ」 という同意のささやきが 聞こえるだけである。



かれらこそ 私が求める本当の家族なのだと感じる。

ほかの家族のことはたちまち忘れてしまうだろう。


この樹木の家族は、

少しずつ、私を養子として受け入れてくれるだろう。


    

青柳秀敬(あおやぎ・ひでゆき)氏翻訳 
南塚直子(みなみづか・なおこ)
さん銅版画
『生きものたちのささやき』朔北社

こなれた訳文を銅版画が引き立てている。


同じ作品でも、 訳し方で まったく違う世界に出会う。
もし、ジュール・ルナールが この本に出会ったら...
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