幕末維新--家具無し混浴、畳付 --幸せでごじゃる

渡辺京二氏 『なぜいま 人類史か』 以下抜粋

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当時の日本人は 裸体です。

女も 腰巻ひとつで オッパイ出しています。

ところが ご存知のように

明治政府は 裸体を 取り締まったでしょう。

日本人は 正直であり 律儀であると認めているバードさんが
容易ならぬことを 言っているのです。

『彼らは 親切で律儀であるが

彼らには ほんとうの意味での 道徳観念が ない』


これは どういうことなんでしょうか。

一つは 男女混浴をする ということがあります。

年頃の娘が 平気で

若い男が漬かっている風呂に

入って来るわけです。

また 女が風呂に入っているところを
外人がのぞき込んだりすると

彼女は 怒るどころか

ニコッと 笑うんです。

つまり 日本人は 性的タブーがない

ということが

彼らには 驚きでもあり 不道徳にも思えるんですよ。

真面目でありながら

とんでもない 不謹慎な冗談を言う というんです。

日本人には 本当の意味での道徳観念がない
というのは

ひとつには こうしたヴィクトリア朝的な

キリスト教道徳の観念から 言っていると思います。

つまりそれは-----

---習俗の違い です。

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外国人の記録から 私たちがびっくりすることのひとつは

当時の農村が 非常に豊かであると
筆を揃えて記述していることです。

日本の農村は 非常に豊かであって こんな豊かな農村は
ヨーロッパには ない。
こんな見事に手入れをされた農村は 
ほかには イングランドにあるだけであると、オールコックは書いています。

さらに、こんなに幸福そうな、そして 腹一杯食ってて
問題なさそうな農民
は ヨーロッパにはいない
とも 書いております。

ハリスも そういうふうに見ています。

ただしそれには、

日本人は物質的に貧しいもので 満足している 

という前提が あるわけです。

たとえば、日本人の家には 家具なんてものが全然ない。

畳の生活をしているものだから
テーブルもいらなきゃ椅子もいらない

タンスぐらいあったんじゃないかと私は思うんですが、

家具 というものが 全然ない。

あの連中は 家具がなくて生活できるんだから いいねー
といったふうに 見ているんです。


イギリス人の新婚夫婦は

何でまず苦しむか。

とにかく 結婚したら 家具屋さんから
ドカッと 勘定書が来るわけです。

それを払うのに

新婚所帯は 大変です。

ところが 日本人は

いつでも 結婚できる、

要するに

畳が敷いてあれば いいんですね。

それで、これは学ぶべきじゃないかと
オールコックは 書いている---

いわば牧人的、牧歌的な世界が日本にある
というわけです。

この際に注意しておかねばならぬのは

日本人は 上のほうも

あまりぜいたくをしていない

ということです。

つまり

貧富の差が あまりない ということです。



ハリスは 江戸城に登りまして

中の建築 それから 将軍の服装

そういったものを 非常に粗末で質素だと見るわけです。

頭の上に 宝石が何十個もつき
その宝石は 一つで何十カラットもある
というようなものは 被っていないわけであります。

日本人の贅沢というのは 知れている。
日本人にも金持ちはいる、
もちろん 支配者がいて 専制支配を行なっている

しかし、その支配者の富たるや 真に貧弱なものであって

これは 貧しい百姓と 水準があまり隔たらないのである

と 観察しております。

日本人は 総じて 非常に貧しい生活で満足している
という前提があるわけですが、

その前提の上に立って、日本人の中には
いまだかつて貧乏人を見たことがない その姿に
貧しさと悲惨さを表わしているような人間には
会ったことがない と
ハリスもオールコックも言っているわけであります。


ハリスとオールコックが見ているところは
だいたい 天領であります。
天領というのは
もっとも年貢負担が 低かったわけであります。

ですから、日本人の百姓の豊かさというのは
これは 天領という条件を考えてみなければなりません。

しかし、その天領という条件を差し引いてみましても、

彼等が一様に言っていることは

日本人の 幸福そうな バカ面であります。

何の邪気もない 幸せそうな顔をしている

というのです。

こんな幸福そうな顔をした農民は 世界中いないんじゃないか

と オールコックもハリスも書いております。

カッテンディーケは
「日本の下層階級は、世界のいずれの国のものよりも
大きな 個人的な自由を享受している、
そして 彼等の権利は 驚くばかり尊重せられている」と言ってるんです。

こんなのは 初めて聞く話です。

江戸時代の下層階級の権利が 驚くほど尊重されていたなんて

我々の常識からすると とんでもないことです。



とにかく日本の封建社会は ひとつの牧歌的な世界

と見えたのでありまして、

オールコックにしろ、カッテンディーケにしろ、ハリスにしろ、

この日本人に ヨーロッパ的な近代文明を押し付ける

ヨーロッパ化された近代的な国民に

日本人がなるということは

幸せなことだろうか

という疑問を ひとしく 書き付けております。

そして、日本人のこの牧歌的な幸せは続かないだろう、

これはもう ヨーロッパと接触して 文明化すれば
終わりになるであろう

-- と、嘆きの言葉を 三人とも共通に書き付けております。

それは 嘆きだけではありません。

つまり

日本の開国を促し

近代化を促す契機となっているその三人の、

自分のしていることは いいことなんだろうか

という 反省でもあったわけであります。

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日本人の力の源 森と水を守るアニミズム
東山魁夷 自然-【巡り合い】-モノ--大切にする心