Voltaire (21 November 1694 – 30 May 1778)
was a French Enlightenment writer, essayist, and philosopher
ヴォルテール『哲学辞典』訳:高橋光安氏 抜粋・編集
PHILOSOPHICAL DICTIONARY
Dictionnaire philosophique pp.105-106
正と不正 Juste (Du) et de l'Injuste
正と不正についての感情を われわれに与えたのは誰か?
脳と心臓を われわれに与えた神 である。
つつましく物乞いする貧者を殺したり 眼をくりぬくよりも、
余分のパンや米やマニホット(タピオカ)を彼に与えるほうがよいことは
あなたがた すべてが ひとしく認めていることである。
恩恵serviceが 陵辱(りょうじょく)injuryより正しく、
温情gentlenessが 憤激angerより好ましいことは、
全地上において 明白である。
誠実と不誠実の 微妙な違いを区別するためには
我々の理性を用いることだけが もはや問題なのである。
善と悪は 隣りあっている。
Good and evil are often allied.
Le bien et le mal sont souvent voisins;
われわれの情念が それを混同するのである。
情念=感情が刺激されて生ずる想念(心の中に浮かぶ考え)
Our passions fail to distinguish between them.
nos passions les confondent:
われわれを啓蒙(けいもう)するのは 誰であろうか?
啓蒙⇒もやもやして見分けがつかないもの(蒙)を ひらく(啓)
=正しい知識を与え、合理的な考え方をするように教え導くこと
Who will enlighten us?
qui nous éclairera?
それは、 冷静なときの われわれ自身である。
We ourselves, when we are calm.
nous-mêmes, quand nous sommes tranquilles.
われわれの義務について書いた誰もが 世界中の国々で
立派な書物を著(あらわ)してきた。
なぜならば 彼らは 理性に従ってのみ 執筆したからである。
Whoever has written about our duties has written well
in every country of the world, because he wrote only with his reason.
Quiconque a écrit sur nos devoirs a bien écrit
dans tous les pays du monde, parcequ'il n'a écrit qu'avec sa raison.
ソクラテスとエピクロス、孔子とキケロ、
マルクス・アントニウスとアムラト2世は、同じ道徳を持っていたのだ。
They have all said the same things: Socrates and Epicurus,
Confucius and Cicero, Marcus Antoninus and Amurath Ⅱhad
the same morality.
Ils sont tous dit la même chose:
Socrate et Épicure, Confutzée et Cicéron,
Marc-Antonin et AmurathⅡ ont eu la même morale.
あらゆる人々に 毎日 繰り返して言おう。
Let us repeat every day to all men:
Redisons tous les jours à tous les hommes :
「道徳は 一つであり、それは 神に由来する。
Morality is one, it comes from god.
La morale est une, elle vient de Dieu ;
教義は異なり、それらは われわれに由来する」と。
Dogmas differ, they are ours.
les dogmes sont différents, ils viennent de nous.
☆
イエスは 形而上学的教義を なんら示さず、
Jesus taught no metaphysical dogma at all.
Jésus n'enseigna aucun dogme métaphysique ;
神学上の覚え書きも まったく 著さなかった。
He wrote no theological exercises.
il n'écrivit point de cahiers théologiques ;
--修道士や 異端尋問官もつくらず、
今日 われわれが眼にすることは 何も 命じなかったのである。
He instituted neither monks nor inquisitors.
He commanded nothing of what we see today.
il n'a institué ni moines ni inquisiteurs ;
il n'a rien ordonné de ce que nous voyons aujourd'hui.
☆
神は、キリスト教に先立つ あらゆる時代に
正と不正の知識を 与えてくれた。
God had given knowledge of right and wrong in all the ages
that preceded Christianity.
Dieu avait donné la connaissance du juste et de l'injuste
dans tous les temps qui précédèrent le christianisme.
神は けっして変更しなかったし、変更することもできない。
God has not changed and cannot change.
Dieu n'a point changé et ne peut changer :
われわれの魂の根源、理性と道徳の原理は
永久に 同一であろう。
The essential of our souls and of our principles of reason
and morality will eternally be the same.
le fond de notre ame, nos principes de raison et de morale,
seront éternellement les mêmes.
神学上の区別、その区別にもとづく教義、
その教義にもとづく迫害は、
善徳にとって なんの役に立つのであろうか?
Of what use to virtue are theological distinctions, dogmas based
on these distinctions, persecutions based on these dogmas?
De quoi servent à la vertu des distinctions théologiques,
des dogmes fondés sur ces distinctions, des persécutions fondées
sur ces dogmes?
自然が--これらあらゆる野蛮な作為にぞっとして
猛然と反発し--すべての人間に 大声で叫ぶ
Nature, frightened and aroused with horror against all these
barbarous inventions, cries out to all men:
La nature, effrayée et soulevée avec horreur contre
toutes ces inventions babares, crie à tous les hommes :
「公正であれ。詭弁(きべん)を弄する(=操る)迫害者たちになるな」と。
詭弁(きべん) =道理に合わないことを強引に正当化しようとする弁論。
'Be just, and not sophistical persecutors.'
Soyez justes, et non des sophistes persécuteurs.
☆
ゾロアスターの掟を集約した『サデール』の中に、
次のような賢明な格言を読むことができる。
In the Sadder, which is the abridgement of the laws of Zoroaster,
you can read this wise maxim :
Vous lisez dans le Sadder, qui est l'abrégé des lois de Zoroatre,
cette sage maxime :
「人が汝(なんじ)にすすめる行為の正、不正が確かめられないときは
汝(なんじ=あなた)自ら(みずから=自身)を つつしめ」。
'When it is uncertain whether an action you are asked to take is
right or wrong, abstain'
'Quand il est incertain si une action
qu'on te propose est juste ou injuste,
abstiens-toi.'
かつて 誰がこれ以上に素晴らしい規則を与えてくれただろうか。
いかなる立法者が これ以上立派に述べただろうか。
Who has ever proposed a more admirable rule?
What legislator has spoken better?
Qui jamais a donné une règle plus admirable?
quel législateur a mieux parlé?
そこには、イエズス会と称する人々がでっち上げた
*蓋然的(がいぜん=ある程度確実)な見解の体系は無いのである。
This is not the system of probable opinions invented by people
who call themselves the Society of Jesus.
Ce n'est pas la le système des opinions probables, inventé par
des gens qui s'appelaient la société de Jésus.
☆
イエズス会士たちによる 宗教的迫害のモランジェ事件に際して
ヴォルテールが書いた『正義に関する蓋然性についての試論』の一節
「私には 半真理も *半確実性も 無いように思える。
物事は 真理か虚偽であり、その中間は存在しない。」
--想起:Trained by the Jesuits but later turning on them,
Voltaire had this to say about their occupancy in France:
"I really must plume myself for having been the first to attack the Jesuits...Once France is purged of the Jesuits, we can hope that people will realize how shameful it is to be subject to that stupid power, the Church, that set them up." source
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--想起:「考えない」 という選択
小泉龍司氏&森田実氏 対談 抜粋
http://www.ryuji.org/broadcast/dialogue_001/index.html
日本は、平地が非常に少ない資源小国です。
何をしなきゃならんかと言うと、助け合いなんですよね。
日本は助け合いでしか生きていけない国なんですよ。
調和することを通じてですね、日本人は協力し合い助け合い、
そしてそこに道徳が生み出され、常識が生み出され、
この道徳と常識というものを2つの軸にして、
日本という共同体が成り立ってきたわけです。
そしてそれをカバーするのが法律だったんですよ。
ですから、法律と道徳とそれから、常識。
道徳と常識は長い間の日本人の歴史が作ってきたものです。
これをきちんと置いてかないと社会は崩壊するわけです。
ここに、最近の自由主義思想の大きな失敗があるんだと思うんです。
--想起:キリストの居ない”キリスト教”
『インディアンの大予言』サン・ベア&ワブン・ウインド
訳:加納眞士氏/三村寛子さん
宗教的指導者たちは、
その宗教に属さない者は誰でも、
生贄(いけにえ)となるべき格好の獲物であると教えている。
『中村元対談集Ⅳ 日本文化を語る』 以下抜粋
中村元氏
「宗教」はもともと仏教の言葉であり、「宗」と「教」とは違う。
「宗」というのは、もとのもの。
これは言葉では言えない言語表現を超えた根本のものである。
それを人々に説く時に「教」になる。
「教」は、時によっては 不適当になれば変えてもいい。捨ててもいい。
けれど、そのもとのもの、これを無視してはならない。
梅原猛氏
日本の場合、何かそのもとにある「宗」と、
出てきた教えとは、だいぶ違っている。
もとにあるものは、日本人の生活に溶け込んでいて、
それは必ずしも言葉や思想として表現されない。
それを大切にすることが一番大事だと私も思います。
もと というのは、人類の最も古い宗教じゃないでしょうか。
旧石器時代の人類にとって普遍的な宗教ではないかと思います。
そういうものにもう一度、人類は返らないと、
宗教が逆に対立を助長する。
そういう意味では、日本人の精神生活の根底に、
人類の最も古い、「宗」の宗教が残存している。
私は、日本の宗教は、そういう「宗」の宗教が根本にあり、
その上に、禅とか、日蓮とか、浄土とか
「教」の宗教が加わったものと思っています。