好きな言葉 を綴ってきたノートをめくっていたら、
菊池寛氏の言葉が出てきた。
《話の屑籠》
日本人は強権に服従しやすい。
戦場では強いが、
軍部や官権(官庁・官吏の権力)に対しては
ごく弱いのである。
日本人は 軍国主義に追随したのではない。
誰も戦争を欲しなかったのであるが、
強権に抗しられないで 戦争に引きずられてしまったのである。
民主主義は結構であるが、
それには 官権というものを徹底的に打破する必要がある。
官権の中枢である警察機構を改善する必要がある。
わずかの口実で、人民を留置所に入れたり、
嫌疑者を拷問する弊風は、即時一掃さるべきである。
官僚政治の弊風(悪い風俗 または風習)を改善するには、
戦時中の役人の大部分を民間人と入れ替えにすべきである。
でなければ 明治以来の官尊民卑(かんそんみんぴ
政府・官吏を尊く、民間・人民を卑しいとすること)の風は、
とうてい抜け切れないであろう。
役人は 月給を貰っていながら恩給を貰えたり、
位階勲 等を貰えたりする制度が、自然に官権を重からしめ、
人民の正当な主張を弾圧することになるのである。〔S.20 10月〕
国民がもっと政治に関心を持ち、
立憲政治の確立を念とし、
政党内閣制だけでも堅持していたならば、
おそらく今度のような大悲運を招かなくともすんでいたであろう。
日本人は、その点において 情けない国民である。
政党腐敗の声を聞いても、
依然として旧来の情実によって投票を行い、
政治のことは誰かがやってくれるだろうと、
好きなやつにやらしておこうといった気持ちである。
同じ学校卒業生で、内地人たるが故に 手当てが4割つくなど、
そんな得手勝手を行って
向こう(朝鮮・台湾の人々)が、心服するわけがない。
皇民化と称しながら、義務だけを強いて
皇民としての権利を与えていなかったのである。
長い間 他人扱いにしたのであるから、
他人になってしまうのは 当然である。〔S.20 12月〕
夫役(=ぶやく。支配者が強制的に課する労役。
ここでは、朝鮮人に対する無償強制労働)
道路建設などのインフラ整備の際、
建設地に住む朝鮮人を補償ゼロで追い払い、無給で建設工事に動員。
1936年朝鮮半島における「左官」の平均日給は 内地人3.37円
朝鮮人2.1円〔昭和11年 朝鮮総督府統計年報 242P〕
朝鮮人の労働を安価に利用することが
植民地支配に於ける富の蓄積に役立った。
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菊池寛氏の『話の屑籠』は、ネット上で公開もされている
honya.co.jp「菊池寛アーカイブ」編集部